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「じゃあ―、」
どうやら口を滑らせてしまったようだ。
そう思ったときには時すでに遅く、
少女の目は更に輝き、
言葉を続けていた。
「かんとくになってください!」
可愛らしい45゜のお辞儀。
それが少女の全身全霊の願い
というのは、すぐに理解できた。
…ただ、よく考えたらおかしい。
いや、おかし過ぎる。
ユニフォームがあるほどの
チームなら何故、“監督者”が
いないのだろうか?
ジュニアチームなら
尚更“監督者”が必要となるものだし…。
そんな疑問は
聞いてみたら早い。
「ねえ…?」
「え、あ…やっぱり…駄目ですか?」
「あ、駄目って訳じゃないんだけど、
一つだけ聞いていい?」
「え?あ、はい。何でしょうか?」
「監督は…俺だけなの?
他に監督者は…?」
「辞めちゃいました。
チーム全員が女の子ばかりだから
勝てる訳がないって言って…。」
勝てる訳がない…か。
監督がそんな台詞を
選手の前で吐くなんてな…。
最低だ…。
「…で俺に監督を頼みたいと?
こんな、たまたま出会ったような
怪しい奴を監督にしていいの?
第一、君が良くても
他の子がOKかはわからないし…」
「…たしかに、今やる気がある子は
私ともう一人の子くらいです。
みんな監督の言葉で
傷ついちゃいましたし…。
でも…でも、
私は…負けたくないんです!
あんな言葉なんかで
みんなを負け犬にしたくないんです!」
声を大きく荒げた少女は
気持ちを吐き出すと
ハッと顔を赤らめ恥ずかしそうに
謝罪をし始めた。
「あ…ごめんなさい…。
つい…思い出したらカッとしちゃって…。」
「あ…いや…うん。
理由は十分分かった。
俺ももと球児だし、
気持ちも分かる…。
是非協力したい…けど、」
「…けど?」
「…君…投手だったよね?」
「はい…あ!分かりました」
少女はパッと分かったという顔をすると
「ついて来てください!こっちに揃ってますから!」
こちらを気づかうように
ゆっくりの早足で
導く少女に俺は着いていった。
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