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「何でも同じ年頃の子供が集まって『先生』っちゅう大人に読み書きやそろばんを習うらしいったい。
大きい町にはいくつか出来ようらしいんよ」
稲造は少し興奮したように早口でまくし立てた。
吾郎はふん、と鼻を鳴らすと興味なさそうに言った。
「何ね…
そりゃ寺子屋やろうもん。
今さら騒ぐほどのこっちゃなかやろ」
稲造は大きくかぶりを振る。
「それが違うんよ。
なんでも子供っちゅう子供は皆その学校に行くようになるっち。
俺も吾郎ちゃんもまだ12歳やき、行く事になるかもしれんばい」
吾郎は両腕で枕を作ると目を閉じた。
「行く訳なかろうもん。
もうすぐしたら田植えをせにゃならん。
いいや、その前に雑草を刈って水を引かないかん。
読み書き覚える暇なんかなかよ。
そんなもん覚えて何になると?」
稲造は吾郎に言い返す言葉を持たなかった。
確かに読み書きを覚えても農作業の役に立つとは思えない。
稲造は吾郎の興味を引きそうな話題を改めて考えた。
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