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吾郎は西の空を見上げた。
すでに太陽の光は弱く、空は黄金色に輝きつつあった。
ちぎれ雲が吾郎の遥か上空をゆっくりと流れていく。
…今日はもうダメだな…
後ろ髪を引かれる思いを断ち切ると、吾郎はおもいっきり大地を蹴った。
そのまま全速力で駆けていく。
そうする事で股の間の熱を冷ませると、吾郎は経験で知っていたのだ。
熱く固まった男根が徐々に解けていく。
家の前に着いた時、吾郎の体はいつも通りに戻っていた。
荒い息を整えながら、吾郎は改めて決意していた。
…明日、森に入ってみよう。
祠の河童を見てみよう…
ようやく落ち着いた吾郎は戸を開き声をあげた。
「ただいま」
それに答えたのは近所に住む権八という男だった。
「おう!吾郎かや。
こげな夕方までどこ行っとったとや?」
囲炉裏を囲み父と権八が酒を酌み交わしている。
母と権八の女房は台所で飯を焚いていた。
吾郎は権八の言葉には答えず囲炉裏のそばに座ると火に手をかざした。
さっきまで走っていたのに手先はすでにかじかんでいる。
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