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「で」
黒板に長机が四つ。どこから調達してきたのか新品のチョークに黒板消し。
そしてなにより、
「ここは何処?」
明音に連れて来られたのは庭付きのそれなりの大きさのある一軒家ときた。
「私のおじいちゃんの家」
「いいのか?」
「おじいちゃん植物状態だし、いいんじゃない?」
「なんか重力とはべつに非常に重い何かを感じた」
「気のせいじゃない。私も何か感じた」
お前の文章にはユーモアが感じられん。自分の妹ながら思わず一歩引く。
「でっかーい」
「彼方ちゃん。この家は無職の人じゃあどうあがいても住めない家なんだよ~」
「すごーい」
さりげなくこっち見んな。
「さぁ!餌は撒いた。あとは魚が連れるのを待つだけ!」
「は?つまり?」
「今から桂馬君が教師になって、続々と来るであろう生徒達に勉強を教えるっていう仕事だよ」
「塾?」
明音はパチンと指を鳴らす。
「大正解」
「だが断る」
得意げにしていた明音は思わずあれっといった様子でガクッと態勢を崩した。
「ど、どうして?もうここまで準備したのに」
「俺が一番信頼してて一番嫌いな職業知ってる?いや、お前なら知ってるはず」
思い出は色褪せない。いつまでもしぶとく残る。忘れたい記憶ほど。
「きょ……教師?」
同じ高校だから同級生である彼女がそれを知らないはずはないのだ。
「大正解」
俺は不満を指に込めそれを鳴らした。
そして、妹がそれを見て噴き出した。
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