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紅茶を挟んで二人は対面する形で椅子に腰かけた。
「……さて、歌姫の弟君が我などに如何様なお話しがあって来られたのか。
手紙には歌姫について知りたい、とありましたが。」
神威に問われ、レンは小さく頷いて応えた。
「はい……。
神威先生は歌姫についてよく研究をなさっていると聞いたので。」
そう言って、レンは首から下げているペンダントを握りしめ、少し俯く。
それから意を決したように顔を上げ、神威と目を合わせた。
「これから俺が言うことは、とても変かもしれません。
…………それでも、聞いてもらえますか?」
問われた神威は少し目を見開いた。
だが、ややあって神威は無言で頷いて返した。
それを見て少し安心したのか、レンは表情を僅かにやわらげて、話し始めた。
「…………歌姫は、この国を支える為の必要不可欠の存在です。
この世界に豊穣と安寧をもたらす竜に、一生をかけて祈りの歌を捧げなければならない。
そのおかげで、俺達はこうやって生きていくことができる。
…みんな、笑顔でいられる。」
だけど、とレンは表情を曇らせる。
「俺は…………、歌姫は、みんなの為の犠牲なんじゃないかと思うんです。
もしも本当に歌姫という犠牲の上に世界が成り立っているのなら、それは間違いなのではないでしょうか?
そんな間違った世界だったら、俺は――」
「レン殿、その先を言うのは少し待たれよ。」
レンの話を突然遮ると、神威は席を立って部屋の扉を開けて辺りを見回した。
周囲に誰もいないことを確認すると、再びレンの向かいに腰を下ろした。
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