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そこで神威は一息ついて、表情を少し曇らせる。
「…………だが、祖父が真実に近付けば近付くほど、祖父の身は危険に晒されていくことになってしまった。」
「え…………。
なぜです?
歌姫について知ることは帝国にとって有益ではないのですか?」
「本来ならばレン殿の言う通りだ。
歌姫の歴史を紐解くことは帝国の歴史を知る術となり得る。
しかし、この帝国はそのようには考えておらぬようだ。
残念なことに。」
「……………。」
ここで神威は一冊の古本をテーブルの上に置いた。
「………これは?
かなり古そうな本ですが…………」
表紙も随分とボロボロになっているその分厚い本を神威はそっと開いた。
「………これは我の祖父が命を賭して遺した、歌姫についてまとめたものだ。
歌姫と帝国の奥深くまで追究し続けた祖父は…………………………、帝国に反乱分子であるとされて捕まり、そして処刑された。」
「そんな!!
……それはなぜ…………?」
「………祖父は、知りすぎたのだ。」
「知りすぎた……?」
神威の答えに分からない、とレンは眉をひそめながら首を傾げる。
「そうだな……。
歴史というのは、そもそも帝国の上にいる者達が作り上げてきたものだ。
真実か否かはともかく、帝国にとって都合の悪いものだと判断したものを彼等は闇の中へ尽く葬り去ってきた。
そして歌姫も然り。」
「まさか………………」
驚きながらレンは視線を本に移す。
「歌姫には我々の国民の知らぬ真実が隠されている。
それも帝国にとって都合の悪いだけのものが。」
「………では、その都合の悪い部分を神威先生のお祖父さんが知ってしまった?」
「恐らく、な。」
神威は頷きながら肯定をする。
「祖父は捕えられ、我の家にあった祖父の文献や記録は押収されてしまった。
………だが奇跡的にこれが遺された。」
本をひと撫でしながら神威は目を細めた。
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