学士

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それから本を閉じ、神威はレンに向き直った。 「この本にの内容は此処で話すことはできかねる。 ここでは障りがありすぎる。」 同意を求められ、レンは黙って頷く。 「もし、貴殿が歌―――――、姉君の為に世界を変えると言うのであれば、我はその始終を見届けたい。 だが貴殿がこれから為そうとすることは帝国、いや、世界をも敵にしなければならなくなる可能性がある。 …………その覚悟、レン殿には御有りか?」 二人の間に長いような一瞬の沈黙が降りる。 「……………あるよ。 俺は決めたんだ。 信じてもらえないかもしれないけれど、俺は少し前に姉の――――――、リンの夢を見たんです。 リンは…………、あの子はたった独りで泣いていたんです。 もちろん、それは俺の夢であって、リンは本当は泣いてなんかいないかもしれない。 だけど、何だかそんな気にはなれないんです。 だから、俺は確かめたい。 この俺自身の目で。 もし、この旅の途中やその先でリンが、歌姫がただの犠牲なのだと分かったら、リンを助けたい。」 真摯で、そしてどこか辛く悲しげな瞳で訴えるレン。 しばらく二人は互いを見合っていたが、ややあって神威はふっと表情を緩めた。 「相分かった。 我は貴殿に、我の知る限りの歌姫についてのことをお教えいたそう。 ただし。」 「ただし?」 神威の言葉を鸚鵡返ししたレンの前に、神威は人差し指を立てて突き出す。 「一つ条件があります。」 「…………条件、ですか」 「如何にも。 我もレン殿と旅を共にさせてはもらえまいだろうか?」    
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