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レンが部屋から出ると、目の前に一人の女性が立っていた。
身形からしてここの神官であろうその女性は、レンに気が付くと微笑を浮かべた。
「貴方が歌姫の弟君ね?」
「……え、ええ。
そうです…………。」
声や表情とは裏腹に、冷たく射抜くような視線にレンはたじろいだ。
そんなレンに女性はそう、とだけ呟いて、やはり冷たい瞳でレンを見つめていた。
「ルカ殿。」
小さな沈黙を破ったのは神威だった。
ルカ、と呼ばれた女性は神威へと視線を移す。
「レン殿を外までお送りする為の者を探していた。
貴殿のお連れになっている其方の者をお借り願いたいのだが。」
冷たい瞳にもルカの態度にも慣れているのか、動じる様子も無く、神威はルカの後ろに控えている信者に目を向けて言った。
「……………いいでしょう。
歌姫の弟君を教会の外までお送りしてあげて。
…………丁重にね。」
はい、と信者は小さく返事をし、レンの前へと歩み寄った。
「こちらです。」
一言いってから信者はすぐに踵を返して歩き始めた。
「あ…………。
では神威、今日はありがとう。」
「礼には及ばぬ。
ではまた。」
「うん、またね。」
二言三言交わし、レンはどんどん先に行く信者の後を駆け足で追っていった。
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