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暗い大地の底。
わずかな光しか差さない、薄暗いそこに在るのは大きな黒と、小さな紅。
何メートルもあるその大きな黒は、不機嫌そうに低く唸り声をあげている。
小さな紅は力なく横たわり、息も絶え絶えになっている。
紅の回りには赤く飛び散った血。
薄れ行く意識の中で、紅は一人の少女を想う。
「……ご………め…………………メ…………………………コ…………………」
呟きは誰にも届くことなく、虚空へと消え去る。
大きな黒がまた唸り声をあげた時、紅はもう動くことはなかった。
****
楽園の果ての神殿で、少女はあぁ、と悲しげな声をあげた。
「歌姫が………。」
そう、悲痛な声をあげる少女。
しかし、これも束の間のこと。
顔を上げた少女は、先程とは裏腹に、口元に微笑みを浮かべ、空(くう)を見上げる。
「大丈夫。
次の歌姫が、また繋いでくれるわ。」
ふふ、と少女は小さく笑って言ったのだった。
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