新たな始まり

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扉を開くと、そこには帝国軍の兵達と神官服を纏った男がいた。 あまりに予想外の来客に、母親は狼狽えた。 「………あ、あの……………神官様、これは一体……?」 「突然の訪問をお許しいただきたい。 ですが、これは早急になさねばならぬことなのです。 貴女の為、世界の為に。」 「………………?」 疑問符を浮かべる彼女の前に、神官は一枚の書状を突き出した。 「我等が皇帝と翼竜教最高司祭の名において、貴女の娘、リンを次の歌姫とする。 ……リンをこちらに渡していただこう。」 「そんな………!! すぐにだなんて………。 せめてあと数日だけでも………」 「残念ながら、それはできません。 歌姫がつい先日亡くなられた。 その意味、貴女もお分かりのはずです。 ………行け。」 神官の合図で、兵達は母親を押し退けて家の中へと侵入していく。 「あ…………!! 嫌! リン……!!!」 娘の元へ駆け寄ろうとしだが、兵士が母親を捕まえて、母親は体の自由を奪われてしまった。 「放して!お願い!!」 母親の悲痛な叫びを聞いてか、それとも、このただならぬ雰囲気を感じてか、双子は大声で泣き声を上げる。 そして、ベッドの上から女の子だけが抱き抱えられた。 「………間違いないようだな。」 赤ん坊の姿を確認すると、神官は未だに兵士に押さえられている母親へと向き直った。 「今は突然のことで、ただ悲しいだけかもしれない。 ですが、貴女の娘はこの世界で最も尊い存在となるのです。 いづれその事に誇りを持てる時が来るでしょう。」 そう言って、神官は赤ん坊を抱えた兵士を連れて馬車へと乗り込んだ。 馬車が走り出した時、母親はようやく解放された。 娘を追いかけたかったが、馬車はもう小さくなっていて、それは叶わなかった。 「………リン……………!!!」 母親は娘の名を呼んでその場に泣き崩れた。 家の中では、片割れを失ったと分かったのか、残された赤ん坊が大きな声で泣いていた。   
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