学士

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神威(カムイ)は神殿の中で用意された一室で、一人の来客を待っていた。 「現歌姫の弟、か………」 一人呟いて、先日渡された一通の手紙を見遣る。 『歌姫の弟君が、神威様に面会を求める書状が届いております。』 そう言われて渡された時にはひどく驚いたものであった。 一体どのような人物であるのだろうか。 歌姫に決められた任期はない。 その為、数年であったり数十年であったりと、その代によって違うのだ。 そして現在の歌姫は、それとなってから十数年、竜に歌を捧げている。 その弟とはどのような人物なのか………。 そんな考えを巡らせていると、ようやく扉を叩く音が来客を伝えた。 「神威様、歌姫の弟君をお連れいたしました。」 「御通しせよ。」 神威の言葉を合図に、扉がゆっくりと開かれる。 まず姿を見せたのはこの教会の信徒。 おそらく客人の案内役であろうその者が、まだ見えぬ客人を中へと誘った。 それに導かれて神威の目の前に現れたのは、明るい金髪に碧の瞳をもった、まだ『少年』という言葉が合うくらいの年頃の男の子であった。 「………貴方が、神威先生?」 よく通る、凛とした声で少年は神威に問う。 綺麗な声だ、と思いながら神威は頷いた。 「如何にも。 帝国学士の神威と申す。 貴殿が歌姫の弟君、レン殿か?」 「はい。 突然の訪問でしたのに、快く受けて下さってありがとうございます。」 「気にすることはない。 レン殿、どうぞこちらへ。」 少年にしては随分と大人びている口調のレンに少々驚きながら、神威はレンを部屋の中へ招き入れる。 その様子を見て、案内役の信徒は神威に軽く一礼をして去って行った。   
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