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「真治のお父さん、相変わらず優しいよね」
お菓子が詰まったリュックを見ながら、呆れた声で楓が皮肉を言う。
「甘えっぱなしでよくないのはわかってるんだけど・・・節約するなら、やっぱりこういう風になっちゃうんだよ・・・」
「バイトすれば?」
「全部食費に使ってる。余りは、携帯につぎ込む感じかな。ほとんど余裕無いんだ・・・」
裕福とはいえ、仕送りはギリギリ。家の資産についてはよく知らないが、真治が専門学校に通うことで、家が苦しくなっているのは事実。
「だから、働き始めたら、まずは親に仕送り、かな。これでも、感謝の気持ちはあるんだぜ」
「ふーん・・・バイトかぁ・・・」
どこか、遠い目で真治を見つめる楓。楓は、外の世界に憧れているのだろうか。
村長の娘、と言うことで、外に出ることはほとんど許されない。
学校の修学旅行で外に出て以来、一歩も村の外には出ていないはずだ。
「うちで働いてみれば?店番をもう1人ぐらい欲しいって、父さんは思ってるはずだよ」
楓にはお金が入り、父さんにはアシスタントがつく。
お互い、悪い話では無いだろ
う。
しかし、楓の表情に影が落ちる。真治はそれが不安になって、つい聞いてしまった。
「楓?」
「あっ・・・ごめん。なんでもないよ」
手を振ってそれを否定する楓。何に対する否定なのか、今の真治にはわからない。
(でも・・・バイトが嫌って訳じゃ無さそうだよな・・・)
楓は、きっと何かを隠している。だが、今の真治には、それについて深く聞く勇気は・・・無い。
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