Prologue

2/2
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「…いい月ね」 そうつぶやいて美奈子は部屋の窓越しに空を見上げた。 今日は月に一度、月が満ちる日。雲はなく、空には煌々と満月が浮かんでいる。 そっと窓を開けると、冷たい風が舞い込み美奈子の長い黒髪をゆらす。すぐそこまで、秋が近づいてきている。 「そんな薄着で窓なんか開けて、風邪ひくぞ」 声の方へ振り向くと、部屋の入り口に亮介が立っていた。そのすぐ横には、美奈子の叔母である陽子も立っている。 「美奈子ちゃん、あんまり遅くならないようにね。気をつけて」 そう言って陽子は美奈子に向けて微笑むと、亮介にニットのカーディガンを手渡し、静かに去っていった。 「今日はいい天気だぞ。星もよく見える」 亮介は美奈子のところまで歩いてくると、その肩にカーディガンをかけた。 「そうみたいね。先月はちょっと雲が多かったから…。今日はよく晴れてる」 「うん。さ、遅くなりすぎるとおばさんに心配かけるからな、行こう」 そう言って亮介は美奈子の後ろに回り、美奈子の座る車椅子に手をかけた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!