月影

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「薬いらんか…」   嗄れた女の声が確かに隆の耳に届いた。 隆の心臓は跳ね上がる。   「く、ください」   女は隆にひとつの小さな包みを手渡した。   「月…げ…飲む…ぬ」   「えっ?」   女は何か言ったが、嗄れて掠れた声のせいで何て言っているのか隆にはわからなかった。   「何でもいいや!サンキュー」   隆はその場で包みを開けると中に入っていた粉を飲み干した。   「おっ、なんだこれ…頭がクラクラしてきた」   隆は体をグルンと1回転させるとそのままその場に大の字になって倒れてしまった。   「隆!起きろよ!おい!」 「ん…あぁ、大丈夫」 「もう帰ろうぜ」   隆は立ち上がるとフラフラとした足取りで先を行く友達の後をついていった。   その時、曇った空から少しだけ月が顔をだした。   「ん…?」   隆は体の中が熱くなっていくのを感じた。 そして徐々に自分の体が様を変えていくのがわかった。   毛が濃くなり、鼻や口が伸びる。 耳や尻尾まで生えてきた。 まるで狼のように。   「はぁはぁはぁ…」   隆は自分を落ち着かせると、大きな口を開け、先を行く友達に襲いかかろうとした。   「…どうかした?」   友達が振り向いた。   「ううん、別に」     月は再び雲に隠れて見えなくなっていた。
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