その日は音もなく忍び寄る

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その言葉に達雄は腹をたてた。   「樫崎さん、じゃああなたの作品を見せてもらいましょうか。さぞ素晴らしいんでしょうな」   達雄は皮肉たっぷりに言い放った。 樫崎が腰をあげる。   「当たり前だ。私の作品は、いつ何が起こるかわからないという内容だ」   そう言いながら、樫崎はディスクをセットした。 画面が変わる。 そこに最初に映されたのは、ごく普通の家族の画だった。 親子水入らずでするラジオ体操。 朝食の風景。 会社に向かう父親。 学校に向かう子ども。 見送る母親。   そこで急に画面が真っ白になった。   「終わり…ですかな?」   達雄はキョトンとした。   「えぇ、終わりです。ある日突然核が落ち、生命が失われた悲劇を表しているのです。」   「はっ。いきなりすぎますな。何の伏線もない」 「そうですよ。ちょっと伝わらないですね」   「何を言うんだ!いつこういうことが起こるかなんてわからないんだぞ!伏線をはる暇などないのだ!」   樫崎は顔を真っ赤にして伝えようとした。   「私が言いたいのは…」   ここまで言った時、世界が真っ白になった。
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