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「へー津村さんて29なんだ」
「ええ、まぁ」
俺がよそったお吸い物を受け取りながら、幼い顔の少年が…いやいや、ここは会社だ。
「津村さんは割烹着似合うね~」
「…どうも」
スーツを着ても成人には見えないこの男性は加原(かはら)と言い、よく俺に話しかけてくる。
社員食堂のカウンターで、漬け物をのんびり選びながら加原は世間話を続けようとする。
「おいッ加原!とっとと進め」
「えー追い越していいっすよ部長~」
「そこのソースかけたいんだよ」
加原に怒鳴った男性は、加原のいる課の部長さん。
加原が寄りかかる場所はソースやケチャップ置き場を完全に塞いでいたようで、犬を追いやるような仕草をされる。
「俺まだ全部取ってないっすもーん」
「ほい、ほい、ほい。ほら退け」
部長さんは加原のお盆にデザートまですべてセッティングすると、悠然とソースをかけ始めた。
「ちょっ、ちょっ部長~!」
ヒラヒラと手をふって去っていく部長さん。
「たっく、全然わかってねぇな」
「……十分、好みは理解してると思いますよ」
お盆に並ぶ品々は、どれも加原が好んで選ぶ物ばかり。
「う…違いますよ!食い物の話じゃなくて!俺の大事な津村さんとのコミュニケーションの時間を奪うなっつー話ですよ!」
ぷくっと膨らませた頬は、まさに子供が腹をたてるそれで、俺は二の句がつげないほどあきれ返った。
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