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「でもや~っぱ難しくって!」
はは、と困ったように笑う加原は意外にも今まで見た中で一番大人びて見えた。
こういう顔をしていれば会社に溶け込み、ぎょっとした顔をされなくて済むだろうに…
「ど~にも津村さんの味にならないんですよね~」
「すみません…もしかしたら分量間違えて」
「あっいやいや!そうゆーんじゃないよ!俺の腕の問題!ド下手くそすぎてせっかくの黄金比をマズくしちゃって」
「そんなこと無いですよ」
「……へ?」
俺が言い切ると、はっきり「意外だ」と思っている顔をされた。
……確かに加原の相手をするときはどうしても口ごもるような形になっていた気がするから…意外は意外かもしれない。
「……栄養士として栄養に気を使うのは最重要なんですけど。…でも、それより大切なことは味や見た目以上に気持ちだと思うので」
呆然と見上げてくる加原の顔が、さっきとのギャップで一段と子供くさく見えた。
あまりの差に少し言い聞かせるように語りかけてしまう。
「加原さんが頑張って作ったものが美味しくない訳がないと思いますよ」
この言葉に嘘やよいしょの気持ちなく、加原に向けて伝えた。
「……」
しかし、加原はそうは思わないらしく、うつ向いて黙ってしまった。
「……」
「…………」
「……;」
しまった……いつも加原が会話の主導権を握っていたので、こんなときどうすればいいか分からない。
鍵を閉めた食堂の傍で、無言棒立ちのまま居続けるのはさすがに俺もつらい。
どうしたものかと体感でもたっぷり数分は悩んだ頃、ようやく加原が動き出した。
「つ、津村しゃん」
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