控え室

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ガタッ    ガタタッ 「くっ、……んしょっ」 貸しスタジオの一角はライブ用に小さく区切られた控え室になっているものだ。 俺はその部屋と全体の掃除をしに来たクリーンスタッフだ。 こびりついたタバコの汚れ。まったく落ちない。 貼り付けられたステッカーの糊の跡。全くとれない。 ガムテープで応急処置されたソファーなんて持ち上げただけですぐ歪む。 蹴られたと思われる破損の防音壁。どんなかかと落とし喰らったんだお前… どれもコレもひどい惨状で、一体どれから手を着けたらいいか分からなくなりそうだ。 「まぁ…おつかれさん…だな」 そっと壁を撫でて、微笑んだ。 「えーと、田野君かな?」 「はい」 振り向くと真っ黒なスーツを着た男が立っていた。ここの新オーナー、仙南 嵩(センナンタカシ)さんだ。 「どう?状況…進んでないみたいだね」 「すみません…へへ;」 「構わないよ。急ぎではないし、君の会社には1ヶ月程スタッフを派遣してほしいとお願いしたから」 「ありがとうございます!」 深々と下げた頭をあげるとオーナーさんは格好いい微笑みをたたえていた。 やっぱ金持ってる男は違うな!笑顔も余裕だ。 「田野君、これは?」仙南は破損した壁を指して言った。 「誰かの破壊衝動の果て、ですかね。貫通しちゃてるんですが、幸い向こう側も室内のスタジオですから雨漏りの心配はありませんよ」 「ふむ…」 ゆっくりと組んだ腕を見ているとオーナーは壁を再び指し 「このまま開けちゃいましょう」 「へ?」 「飛行機窓くらいの大きさにくりぬいてガラスを入れるんですよ」 「はぁ、かしこまりましたが…」 間抜けな返事にオーナーはクスッと笑う。 「田野君は…ここがこの後、何になるかご存じですか?」 「へ!?い、いいえー;改装は僕扱ったことなくて検討も…ははは;」 「少人数性のブティックホテル…通称ラブホテルですよ」 よっぽど驚いた顔をしたのか、オーナーは腹と口を押さえて苦しそうに笑った。 そんなに笑わなくても… 「私のお客様は『普通』じゃ飽きていらっしゃる方ばかりなんだ。意表をついた場所でより凝った『おもてなし』をするのさ」 「…あの、例えば…どんな?」 「あれ?興味ない人なのかと思ったけど?」 「えっ!?あっそれはそのー…今後の参考に!…なんちゃってー…」 「…いいよ。教えてあげるよ」  
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