育斗14歳の夏

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「母さん、いつまでも泣かないでよ」 親父の葬式が終わり、出棺の準備中にもかかわらず、人目を憚ることなくお袋はさめざめ泣いていた。 俺にはあんなろくでもない親父の為に流す涙なんか一粒だってありゃしないってのに、お袋ときたらどんだけ好きだったんだよ? 俺の親父は典型的なダメ人間で、昔は競馬のジョッキーをしていたらしい。母のさくらとは職場結婚で、現役時代は泣かず飛ばずの成績で、引退してからは調教師を目指したものの、ことごとく受験に失敗し、酒びたりの日々。ついには肝硬変になり三日前にくたばったって訳だ。 お袋に散々あんな苦労をかけた親父の最後はやっぱりろくでもない死に方だったけど、俺にとっては逆に痛快でもあったなあ。 なによりこれで厄介者でしかなかった親父がいなくなったことにより、お袋の負担が減る。酒に酔った親父の暴力に悩まされる心配もない。 小学生の頃はまだまだ親父には敵わなかったが、中学に入学する頃には力関係は逆転し、俺の目が届く範囲ではお袋を守ってあげることはできた。 本当は一日中お袋についていてあげかったけど、それは無理がある。それでも学校では部活動もしないで授業が終わればすぐに帰る日々が続いた。 親父が死んで神様に感謝したいくらいなのに、なんでお袋がこんなに悲しんでいるのか理解できない。そもそも親父のどこに惚れて結婚したんだろう? 今は無理かもしれないけど、お袋が落ち着いたら聞いてみよう。
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