育斗14歳の夏

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霊柩車が火葬場に入る頃にはお袋も少し落ち着きを取り戻していたようで、俺も安心してもいいかな?と思ったのも束の間、クソ熱く燃え盛る炎の中に親父の棺がゆっくり入る様を見ていたお袋は、その場でまた泣き崩れてしまった。 確かに頭では親父が病院で息を引き取った時点で終わり。永遠の別れと分かっていたはずなんだけど、遺体が焼かれて姿形が無くなるのは実感として本当に親父との決別をつきつけられた気がする。 まったく最後の最後までお袋を苦しめる親父を俺は死んでも許さない。俺は絶対に親父みたいな奴にはならない。自分の愛した人を悲しませることは人間として最低だ。常に危険と隣り合わせのジョッキーも仕事としては最低だ。 あと一年。あと一年で中学を卒業したら仕事に就いてお袋に楽をさせてやろう。お袋はまだ若い。優しくて美人だ。あの笑顔が戻るなら俺はなんだってやってやる。 「母さん、もう親父はいないんだ。いくら泣いても親父は帰ってこない。これからは俺が母さんを支えるからもう泣かないでよ」 「育斗は優しいね…父さんは…本当は父さんも優しい人だったんだよ…純粋で…馬が好きで…トレジャーの為なら自分の全てを投げ出してもかまわないって…私はそんな父さんが好きだったの」 「理解できないよ。馬の為に家族を犠牲にして平気でいられる親父の神経を疑うよ」
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