育斗14歳の夏

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「情けない…私は自分の息子をそんな風に育てたつもりはないのに…本当に申し訳ありません」 数田さんに深々と頭を下げるお袋の目には涙が溢れている。俺は数田さんに対しての後ろめたさは感じなかったが、自分のせいでお袋を泣かせてしまったことに後悔した。 お袋を悲しませてしまった。 俺のしたことは親父がしてきたことと変わらないんじゃないか? 「いや、育斗くんの言うことも分からないではないですから。むしろ正直に物事を言えるのは、しっかり現実を正面から見据えて受け入れる覚悟ができているってことでしょう」 「なあ、育斗くんはお母さんのことが好きだろう?そのお母さんも騎手をしていたんだ。競馬を否定するってことはお母さんのしてきたことも否定するってことにならないか」 「確かに競馬はギャンブルだ。世間一般からすればその印象が強いだろう。でも競馬はそれだけじゃない」 「競馬を否定するならもっと競馬のことをよく知ってから否定したほうがいいんじゃないかな」 「嫌いなものを知りたくはないです」 「君は親父さんのことを嫌っていたみたいだが、今の君は親父さんと同じで逃げていることにならないか?強い男にならないとお母さんを守ることもできない。それでいいのか」 「挑発してるんですか?そんな口車には乗りません。お袋のことは絶対に俺が守りますから心配は無用です」
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