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ほとんどの生物が寝静まり、この世のすべてが闇の帳(トバリ)に包まれる時間帯。
動く気配が感じられず、まるで世界に一人だけになってしまったかのような錯覚を覚える街を青年が走っていた。
「くっ・・・はっはっはっ・・・はぁ、はぁ」
薄暗い街灯を頼りに青年は見慣れたマンションを見つけると暗証番号を素早く打ち込み中に入り、エレベーターを待つ。
カチカチカチ
何回も押したところでエレベーターが速く来るわけでわないが青年は狂ったように押し続けた。
カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
チン
エレベーターが着き慌てたように乗り込み再びボタンを押し続ける。
やっとで階に着き、自らの部屋の前に辿(タド)り着く。
急いでドアを開けようとポケットからカードキーを取り出した。
その時一緒に何かが落ちたが今はそれどころではない。
「はやくっ!!」
早く、速く、
鍵を開けないと!
「・・・くそっ」
手が震えて上手く鍵を開けることができない。
カチンッ
「よしっ」
鍵が開いた。
それと同時に勢いよくドアを開け中に身を滑らせる。
ガ チャン
部屋の中に入ってドアの鍵が閉まる音を聞き、ホッとして冷たいドアに背中をあずけ、玄関でズルズルと地べたにしゃがみ込んだ。
そして、酸素を思いっ切り吸って頭を動かす。
「はぁはぁはぁ・・・っはぁっはぁっはぁ~、っく、なん、何なんだよ、アイツは・・・・っ」
頭を抱え、ガタガタと震える青年の目には明らかな恐怖の色が浮かんでいた。
「くそっ、はやく結界を」
アイツに見つからないように結界を張らなければここもすぐに見つかってしまう。
いや、
もう既(スデ)に・・・
いつもアイツはどこへでもやって来る。
音も無く、気配も無く、何も無かった場所から忽然(コツゼン)と現れる。
そしてオレはアイツの視線に、生物の根本的な本能の部分で恐怖を覚えていた。
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