病院

10/12
2737人が本棚に入れています
本棚に追加
/547ページ
裕が何を言いたいのかよく分からなくて、鈴はじっとその横顔を見つめた。 それに気づいて、裕が困ったように笑う。 「夢をね、見るんだ」 「夢?」 要領を得ない話に、鈴は聞き返す。 うん、とひとつ頷いて、裕が言った。 「鷹成が死んでから・・・時々。鷹成と話す夢。妙にリアルで・・・だからなんだか、死んだことさえ信じられなくて」 考え過ぎかな、と言って笑う裕に、何と言っていいか分からずに、鈴は視線を落とした。 鷹成流星。 彼の存在を、未だ引きずっている人々がいる。 それはなんだか悲しくて、なにより、鷹成の魂が不憫だと、鈴は思った。 (早智の魂も) 同じだろうか。 あの事件以来、彼女の夢は見なくなった。 それでも時々、ぶり返すように彼女を失った喪失感に苛まれることがある。 あの時の記憶に、飲み込まれる時がある。 それは、やはり。 (早智にとっては、悲しいことなのかな) 空を仰ぐと中途半端に欠けた白い月が見えた。
/547ページ

最初のコメントを投稿しよう!