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裕が何を言いたいのかよく分からなくて、鈴はじっとその横顔を見つめた。
それに気づいて、裕が困ったように笑う。
「夢をね、見るんだ」
「夢?」
要領を得ない話に、鈴は聞き返す。
うん、とひとつ頷いて、裕が言った。
「鷹成が死んでから・・・時々。鷹成と話す夢。妙にリアルで・・・だからなんだか、死んだことさえ信じられなくて」
考え過ぎかな、と言って笑う裕に、何と言っていいか分からずに、鈴は視線を落とした。
鷹成流星。
彼の存在を、未だ引きずっている人々がいる。
それはなんだか悲しくて、なにより、鷹成の魂が不憫だと、鈴は思った。
(早智の魂も)
同じだろうか。
あの事件以来、彼女の夢は見なくなった。
それでも時々、ぶり返すように彼女を失った喪失感に苛まれることがある。
あの時の記憶に、飲み込まれる時がある。
それは、やはり。
(早智にとっては、悲しいことなのかな)
空を仰ぐと中途半端に欠けた白い月が見えた。
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