(うたう)

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「久しぶりに会えて嬉しいぜ。とは言っても、オレのことなんざ微塵も記憶にないんだろうがな、兄弟」 水野にはこの男が誰だかさっぱりわからない。 "兄弟"という言葉が何を意味しているのかさえわからない。 「近々良いことがあるからよ、それまで待っててくれ。その時に全て教えてやる。嫌でも思い出させてやるからよ、兄弟」 そこでぷつりと意識が失われた。 次に意識が戻った時、そこに眼帯の男はおらず、代わりに目に映ったのは乃澄の家の天井だった。 ── ─ 珍しく水野は学校にいた。 珍しく授業を受けていた。 雑音にしか聞こえない教師の張り声と、紙とペンが擦れ合う音を受け流し、頬杖をついて外を眺めている。 .
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