(うたう)

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窓際の最後尾、四階からの眺めは悪くない。 ちらほらと見受けられる白雲の奥には蒼天が広がり、裾元には緑青の山々が鎮座する。 高層ビルは数えるほどで、決して高くはない建造物と住宅がひっそりと密集し、趣すら感じる佇まいを醸し出している。 落ち着いた雰囲気の静かな町だ。 殺人が起こるだなんて想像もしないような、殺人鬼が存在しているだなんて想像もできないような。 そんな穏やかさを感じる街だ。 薄い窓ガラス越しに映る風景。 こんなにも日常的で平凡に溢れた時間を、普通はどのように感じるのだろう。 安心感を抱くのは可笑しいのだろうか。 水野は、この日常的で平凡に溢れる空間に安心感を抱く。 .
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