序章

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元々田村家は三春を中心とした約十万石を所有する大名だったが、清顕が近隣諸国への侵略に失敗。 侵略をうけた他国の連合軍の反撃を受け、万事休すの状況へと追い込まれていた。 其処で清顕は、この状況の打開策として、ひとり娘である愛姫を、近頃の躍進が著しい伊達家の世継ぎ、政宗に嫁がせることを決定した。 愛姫は、田村家の唯一の血を継ぐ娘。 本来なら、嫁に出すのではなく、婿をとり、田村家を存続させなくてはならない身の上だった。 併し清顕は、目先の危機から田村家を救うためのほかの道など思い付かず、結局、政宗との間に生まれた第二子を養子にとることにした。 天正七年、愛姫の乗った輿は、雪深い板谷峠を小坂峠に迂回して、梁川で田村家から伊達家へと渡された。 田村家家臣の向館内匠が水晶の数珠を取り出す。 「水晶のようなる子を以て」 と祝う。 伊達家家臣遠藤基信が、 「末繁盛と祈るこの数珠」 と返す。 両家の繁盛を寿ぐその言葉を、愛姫は、どんな想いで聞いていたのだろう。 僅か十二歳の、その幼い身に背負うには、あんまりに重過ぎる自らの運命。 彼女は、一体、どんな想いで。
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