初陣

3/5

151人が本棚に入れています
本棚に追加
/387ページ
すいっちょん。 聞こえてきた虫の音に、二人は顔を見合わせて、クスッと笑った。 「もう夏だな」 「そうですね… これから暑くなりますね」 凡に、政宗や愛姫の生活の場、米沢城は中央にくらべれば各段に涼しいのだが、中央に赴いたことのない二人にとっては、奥州の寒暖が全てである。 それに、恐らくだが、政宗は確信していた。 自分はいつか京に下るだろうが、彼女は死ぬまで、ここから出られない。 これから永い刻を生きていく彼女だが、彼女は、一生奥州で生きるしかない。 それが悪いとは思わない。 みなそうして生きてきた。 だが、ほんの少し胸が苦くなる。 城にいれば安全。 そんな確約もなく、籠の鳥のまま生きていく。 それは―なんと寂しいのだろう。 だから、政宗は決めた。 少しでもいい。より大きな領国が欲しい。 彼女の世界が、一寸でも広がるように。 籠は籠でも、窮屈な籠ではないように。 それだけが、政宗が唯一出来る、償いだから。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

151人が本棚に入れています
本棚に追加