151人が本棚に入れています
本棚に追加
/387ページ
すいっちょん。
聞こえてきた虫の音に、二人は顔を見合わせて、クスッと笑った。
「もう夏だな」
「そうですね…
これから暑くなりますね」
凡に、政宗や愛姫の生活の場、米沢城は中央にくらべれば各段に涼しいのだが、中央に赴いたことのない二人にとっては、奥州の寒暖が全てである。
それに、恐らくだが、政宗は確信していた。
自分はいつか京に下るだろうが、彼女は死ぬまで、ここから出られない。
これから永い刻を生きていく彼女だが、彼女は、一生奥州で生きるしかない。
それが悪いとは思わない。
みなそうして生きてきた。
だが、ほんの少し胸が苦くなる。
城にいれば安全。
そんな確約もなく、籠の鳥のまま生きていく。
それは―なんと寂しいのだろう。
だから、政宗は決めた。
少しでもいい。より大きな領国が欲しい。
彼女の世界が、一寸でも広がるように。
籠は籠でも、窮屈な籠ではないように。
それだけが、政宗が唯一出来る、償いだから。
最初のコメントを投稿しよう!