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あまり人からは信じて貰えないのだけれど、僕には生まれた時の記憶がある。信じる?どっちでもいいんだけどね。まぁちょっと聞いてみなよ。 気がつくと僕は、暗い暗いところにいた。そこは絶えずどくんどくんと気味の悪い音がしていた。僕はそこがイヤでイヤでね。早く出ていきたくて仕方がなかったんだ。だけどどうしたら出られるものか、さっぱりわかんない。どうしようもないから、僕はその暗くて気味の悪い音のする場所で、じーっとしてたんだ。してたっていうか、本当にそうするしかなかったんだけどね。とにかく僕は、そこでずっと待ってたんだ。何を待ってるのか、自分でもわかっちゃいなかったけど、待ってたんだ。ずっとずっとね。 そうやってどれだけ待ったか、いい加減うんざりして来た頃に、様子が変わってきた。例のドクンドクンって音が、だんだん速くなってきたんだ。ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。僕はちょっと不安になった。どうなるんだろって。これからどうなるんだろって。でも、そこにあったのは、不安だけじゃなかった。僕の胸は不安と、なんでだかわかんないけど、希望ってヤツで、ハチキレそうになってたんだ。 ドクンドクンドクンドクン。とうとうだよ。真っ暗闇しか知らないはずの僕にも、なんでかわかったんだ。生まれる! 最初には、光が見えた。イヤで仕方ない真っ暗から外に出ると、そこは光でいっぱいだった。もう真っ白。やっと出れたんだ!僕はうれしくて声をあげたよ。ギャーって。思いっきりね。そしてひとしきり声をあげたら、だんだん見えてきたんだ。光の中に。彼女の姿が。 白ばっかりだった僕の視界の中に、浮かび上がって来た。そこに、すぐそこに、彼女はいた。彼女もたった今生まれたんだって、すぐにわかった。彼女は僕を見てた。僕も彼女を見てた。自分の胸から、よく知ってる音が聞こえてきた。ドクンドクンドクンドクン。そのときにね。頭の上から声がした。 「この子たち、見つめあってるわ。さっそく恋に落ちちゃったみたい」 それが誰の声だったのかはわからない。医者だったのかもしれないし、看護師だったのかもしれない。誰の声だったかはわからなかったけど、その言葉は、生まれたばっかの僕の脳みそにはっきり響いた。僕が最初に覚えた言葉だよ。「僕は恋に落ちた!」 それから僕がどうしたかっていうとね。やることはひとつだよ。思いっきり声をあげたのさ、ギャーってね!
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