In the Pot Ⅰ

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 しかし相棒黒龍の眼は動かず目の前の赤竜を据えていた。まあ、単純に考えてあれが隊長機といったところだろう。しかし武装は貧相で、装甲板は無いに等しく、武器も機銃しか積んでいない。もちろんその方が軽くなるから速くはなる。が、命知らずなカスタムだ。よほど腕に自信があるのか。  声も出ていたかもしれない。「気に食わねえな」その言葉が脳髄を焼いた。気に食わなかった。唇を固く結んで、相棒のケツを叩く。もうどうにでもなれ。このままにらみ合いを続けていてやる義理はない。 「もういい、相棒、決めてやろうぜ」  比喩など必要ない。一瞬だ。一瞬で敵の喉元に噛み付く。呆気ない、これでもう先は決まったようなものだ。  ドラゴンブレス、それが竜を最強たらしめる一因。空の王者の吹く灼熱の息吹に耐えられる物質はそうはない。故に機竜にはこれが出来ない。竜の身体がブレスに耐えられても、それを乗っ取る諸機器が熱にやられて、結局は墜ちるからだ。こればかりは生身の竜にしか撃てない。  相棒の牙は機竜の喉元に食いついたまま、ドラゴンブレスを放った。統制回路を失った機竜は墜ちるだけだ。後ろのやつも巻き込んで、焔の息は雲すら焼き払った。通信機器も燃え尽きたのだろう、断末魔すら自らに閉じ込めて二騎の機竜は墜ちた。  隊長機と思しき赤竜だけがそれを避けたらしく、単騎寂しく浮いている。 『……いい腕だな』  通信か。都合の良いときばっかり繋げやがって。 『生身の竜であの数の機竜を落とすとはな。何者だ?』 「言わなかったか? ただの運び屋だ」 『ただの運び屋が軍隊とタメはれるかよ』 「うるせえよ。で、あんたもこの積み荷を欲しがるのか?」 『俺は要らん。が、そいつが連合の元に届かんようにするのは俺の仕事だ』  やはり、俺が連合の回し者であることは漏れていたようだ。そうでなければ民間人相手にあれほど執拗に積み荷を渡せとは言わないか。 「仕事だから、民間人も襲うってか? 血も涙もねえ」 『まあ、仕事なんでな。悪いが、墜ちてもらう』 「余裕ぶっこいてんなよシャア専用。さっきお仲間が呆気なく墜落してったの、見えなかったのか?」 『余裕ぶっこいてるのはお前だろう。俺を軍の屑どもと一緒にするな』  何を言ってやがる──。そう思ったときには、すでに視界から赤竜の姿は消えていた。
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