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「ちぃッ……」
ほとんど条件反射に近かった。俺は手綱を引き転身、無意識にハンドガンの引き金を弾いた。二発、三発。目標も見えていないのに、無心で撃った。金属の掠れる音が風にさらわれる。
まばたきが失策だったのかも知れない。落ち行く薬莢の向こう側、すでに赤竜は目の前だった。手を伸ばせば掴めそうなすぐそこに肉薄していた。
「……ッ」
『敬愛するジャパニーズだ。せめてもの手向けに、君が守った積み荷には手を出さんでやろう』
脳ミソに砂利を詰め込められた気分だった。もはや言葉など聞こえない。卑怯。無能。悔悟。夢幻。油断。さまざまな単語が俺の頭を占めていく。コンマにゼロをいくつ並べても足りないようなその刹那に、自分でも驚くほど多くのことが浮かんでは消えていった。これが走馬灯のように……というやつなのか。信じちゃいなかったが、実際に見てみるとどうにも……。
『See you,good by』
そんな声が聞こえた気がしたが幻聴だろう。かわりに現実としてはっきりわかるのは機銃の音。相棒の翼に穴が空いた。続いて胸、首、頭。被弾する度俺の身体にも生々しい振動が伝わる。相棒の呻き声も、耳を塞げないのが辛い。
そして、飛行能力を失った相棒に久しぶりの重力が襲いかかる。空が急速に遠くなっていく。俺はここに至りようやく敗けを悟った。
「クソヤロウがッ!」
悔し紛れにもう一発引き金を弾く。乾いた音が響くと同時に、視界が暗くなった。それからのことはわからない。一つ確かなのは、俺は依頼を果たせずに手負いの相棒と墜落したということだ。
そのとき俺は完全に生を期待していなかった。
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