Trigger Happy Birthday Ⅰ

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 E.E.53,6/6  物心ついたときから、僕の周りには白い色しかなかった。朝目を覚まして最初に見る天井の色も、そのあとに首を回して見る壁の色も、人間の服も全部、一点の汚れすらない真っ白な色だった。 「君の両親は帝国軍に殺された。帝国が憎いと思うならば、戦うのだ」  毎日のように白衣の男たちから浴びせられるその言葉が、僕の生きる理由だった。  別に、帝国軍が憎かったわけではない。両親がどんな人だったかも、そもそも両親がどんな存在であるのかも、僕にはよくわからない。殺されたと言葉だけで言われても、感じる心がなかった。  ただ、何故かはわからないが、彼らの言葉に従って戦わなければ、自分が自分でなくなってしまう。そんな気がする。惜しむべき自我などもとから持っていないというのに、無いものを手に入れた気になって、それを失わないように生きている。両親の仇とやらをとるのは、ただの理由付けでしかなかった。  それに……戦いに出れば、この、寝台に寝かされて身体をいじられるだけの真っ白い空間から外に出ることができる。それは新鮮な世界だった。少なくとも白しか知らない僕にとっては、曇天の灰色も、爆発の赤色も、美しく見えた。  今日もそうだ。出撃命令があって、この鬱陶しい身体を縛る機器を外してもらえた。命令を拒否すれば、ずっとあれに繋がれたままだ。それだけは、絶対に嫌だ。 『調子はどうだ?』  機竜のコックピットに、通信がはいる。いつもの上官だ。僕はただ大尉とだけしか彼の名を知らない。 「はい……」  ──下らない。 「問題、ありません」  調子がどうだろうと、関係無いくせに。僕にとっては、都合は良いけれど。 『それは結構。あと10分で輸送機は目的地に到着する。そこで近づいてきた機竜は全て落とせ。君は何も考えず、ただそれだけを遂行していればいい』 「……はい」  僕に相づち以上の言葉は必要ない。要るのは実績だけ。それを残さなければ、今度は僕自体が不必要とされる気がして、それがとてつもなく、怖い。
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