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敵の数はあまり多くなかった。それに動きも鈍い。
『いいか、君がチームを引っ張るのだ。先行しろ』
「……了解」
アクセルを踏む力を強める。周りにいる味方部隊が、どんどん後ろに消えていく。
味方との距離と反比例するように、敵との距離が近くなっていく。ここはもう敵陣なのだろう。
「統制回路、つまり脳ミソ。ここを潰せば機竜は落ちる」
これが、僕が人生でいちばんはじめに教えられた訓だった。その教えに従い、頭だけを狙う。無駄なことはしたくなかった。敵を無力化するという意味に於いては、傷が深かろうが浅かろうが動けなければどっちでも良いと思った。
回路を失った機竜は確かに落ちた。それ以外の外傷も無く、綺麗なまま、砂に埋もれる。
体がどんなに頑丈でも、頭のネジ一本外れるだけで、戦うことができなくなる。命令がなければ動けない。それはつまり、自我の放棄、存在の否定。これではまるで──。
『どうした?』
「え……」
『動きが鈍っているぞ。調整が足りんか?』
「あ……いえ、大丈夫です」
『頼むぞ。君がそんなでは、部隊全員の士気に関わる』
改めて顔をあげる。ミサイルやロケット弾の弾頭が交錯している。それらは全て僕のもとへ向かってきていた。当たり前だ。今この場には彼らの敵は僕しかいないのだから。
「こんなものでッ……」
ロールして避け、桿のボタンを押す。弾頭を撃ち落とす。これで中央が空いた。そこを突破し、一気に突撃。自機の顎が、敵機の心臓部を捉える。そのまま零距離で掃射。敵機は、ピクリとも動かなくなった。それを盾に、備え付けのスナイパーライフルで後続を狙う。一騎、二騎三騎、次々と落としていく。機竜というのは最速の兵器と聞いたのに、みんなノロノロと墜ちていく。
『……時間だな。上々の戦果だ。帰投しろ』
砂漠の砂には、本来そこにあるべきでないものが、屍となって、瓦礫となって埋もれていた。残った敵は背を向けて撤退している。
「了解。……ねえ、大尉。どうして、他の人たちはこんなのも落とせないんですか?」
『そう言うな。仕方ないのだよ。彼らは人間だからな、君ほど強くないのだ』
「人間?」
『そうだ。人間には限界がある。だが君はその一線を越えた存在だ。これからも期待しているぞ』
人間を越えた存在。わからない。僕にはこれまで、そしてこれからも、戦いしか無い。
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