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帰投してからあの真っ白い部屋に戻るときが、いちばん憂鬱だ。戦闘が楽しいと思っているわけでは、当然ない。でも、あの部屋で薬を飲まされたり身体をいじられたりするくらいなら、そっちのほうが、何倍もマシだ。
ハンガーに降りると、急に目眩がした。いつもそうだ。あの部屋から出て時間が経つと、体の調子が悪くなる。大尉もそれをわかっているようで、毎回ハンガーで待っていてくれる。そして、部屋まで肩を貸してくれる。
「見たか? さっきの戦闘でのヤツを」
「あいつ、機竜でスナイパーライフル使ってたぞ。どんな動体視力してんだ……」
「どんなヤツが乗ってるかと思えば、まだガキじゃねえか」
「ガキとはいえ、ヤバいのは確かだ。正真正銘の化け物だよ、アレは」
「あの化け物に撃墜スコアかっさらわれちまって、うまくねえなあ」
「つってもまあ、その化け物のおかげで俺たちは勝ててるんだ。おこぼれが頂けるだけありがたいってもんよ」
君、ヤツ、あいつ、アレ、あの化け物。僕に名前は無い。いつだって僕への呼び名は代名詞ばかりだ。この胸を締め付けるような感情をなんと呼ぶのか、僕は知らない。
「ねえ、大尉……」
「凡人どもの囀ずりに耳を貸す必要はない。君は彼らより優れているのだ」
「……はい」
「今日はご苦労だった。次にまた君の力が必要となるときまで、しっかりと身体を休めておいてくれ」
「……はい」
休めるもなにも、ないじゃないか。部屋のドアを開ければそこには白衣のあいつらがいて、部屋の中には白い寝台しか無くて、僕はそこに寝るしかない。
この時間が嫌いだった。嫌いだったけど、疑うことはしなかった。疑う余地がなかったのだ。気づけばそれが、普通になっていたから。
享受してしまうのは簡単だ。拒絶するのは難しい。僕は、その難しいことを考え付きすらしなかった。今日だって結局、白衣の男に囲まれながら、寝台に上がった。
「やはり、まだ精神の安定性に問題があるか」
「だからクスリで頭ぶっ壊せば早いって言ってるんだ。自我を残すから面倒になる」
「いや、大尉は今のまましつけるのが良いらしい」
「へっ、あの人の変態趣味にもついてけねえや」
ああもう、どうにでもしてくれ。
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