Trigger Happy Birthday Ⅰ

4/5
前へ
/62ページ
次へ
 帰投してからあの真っ白い部屋に戻るときが、いちばん憂鬱だ。戦闘が楽しいと思っているわけでは、当然ない。でも、あの部屋で薬を飲まされたり身体をいじられたりするくらいなら、そっちのほうが、何倍もマシだ。  ハンガーに降りると、急に目眩がした。いつもそうだ。あの部屋から出て時間が経つと、体の調子が悪くなる。大尉もそれをわかっているようで、毎回ハンガーで待っていてくれる。そして、部屋まで肩を貸してくれる。 「見たか? さっきの戦闘でのヤツを」 「あいつ、機竜でスナイパーライフル使ってたぞ。どんな動体視力してんだ……」 「どんなヤツが乗ってるかと思えば、まだガキじゃねえか」 「ガキとはいえ、ヤバいのは確かだ。正真正銘の化け物だよ、アレは」 「あの化け物に撃墜スコアかっさらわれちまって、うまくねえなあ」 「つってもまあ、その化け物のおかげで俺たちは勝ててるんだ。おこぼれが頂けるだけありがたいってもんよ」  君、ヤツ、あいつ、アレ、あの化け物。僕に名前は無い。いつだって僕への呼び名は代名詞ばかりだ。この胸を締め付けるような感情をなんと呼ぶのか、僕は知らない。 「ねえ、大尉……」 「凡人どもの囀ずりに耳を貸す必要はない。君は彼らより優れているのだ」 「……はい」 「今日はご苦労だった。次にまた君の力が必要となるときまで、しっかりと身体を休めておいてくれ」 「……はい」  休めるもなにも、ないじゃないか。部屋のドアを開ければそこには白衣のあいつらがいて、部屋の中には白い寝台しか無くて、僕はそこに寝るしかない。  この時間が嫌いだった。嫌いだったけど、疑うことはしなかった。疑う余地がなかったのだ。気づけばそれが、普通になっていたから。  享受してしまうのは簡単だ。拒絶するのは難しい。僕は、その難しいことを考え付きすらしなかった。今日だって結局、白衣の男に囲まれながら、寝台に上がった。 「やはり、まだ精神の安定性に問題があるか」 「だからクスリで頭ぶっ壊せば早いって言ってるんだ。自我を残すから面倒になる」 「いや、大尉は今のまましつけるのが良いらしい」 「へっ、あの人の変態趣味にもついてけねえや」  ああもう、どうにでもしてくれ。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加