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E.E.53,6/12
自分が起きているんだか、寝ているんだか、それすらもよくわからない。いっそこのまま夢の世界に留まることができれば、どれだけ幸せだろうか。
「私が出せと言ってるんだ。責任は持つ」
「まだメンテナンスが終わってません! どんな副作用があるか……」
「そんなもの、終わってからどうとでもなる! 退け!」
気がつけば大尉と白衣が口論をしていた。微睡みの中にいる僕には、彼らの口から出る単語の一つ一つが理解できなくて、彼らがなにを話しているのか、わからなかった。
「大……尉……?」
「おお、起きたか。君の力が必要とされるときがきた」
大尉は早口に言いながら、僕の体に刺さった点滴や繋がれた機器の線を大雑把な手つきで取り払っていく。血が所々から流れるが、痛いという声も表情も出なかった。僕に思考は許されない。ただ大尉の命令を聞き、戦う、それだけの存在なのだから。
「敵を倒せ、一騎たりとも生きて逃すな。奴らは君の両親の仇なんだ」
大尉は怒っているようだった。どこかの防衛線を突破されて、どこかが陥落の危機だから、後詰めとして送られたとか言っていたけど、僕にはそんなことはどうでもよかった。
戦場は、ビルの建ち並ぶ街中だった。と言っても、瓦礫ばかりの廃墟という印象で、人はいなさそうに見える。いや、実際、いない。静かだ。戦闘をしに来たのに、何の影も音も無い。ただ、さっきまで激しいなにかがあったということは、煙の立ち上る街を見れば瞭然だった。
「大尉……敵はどこですか?」
『なにを言っている。今まで通り、白い機竜と、それをフォローするように動く機竜を落とせ。今作戦は失敗は許されんのだ』
「白……白いのはいません。黒いのはいるけど……」
『なに、黒?』
ビルの間に静かに孤頭飛ぶ黒い機竜。それ以外、ここに動くものはなかった。僕はその機竜に、ひどい違和感を覚えた。そう、だって、あれでは、まるで、あの機竜の動きは、生きているようにしか見えなかったから。
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