In the Pot Ⅰ

2/12
前へ
/62ページ
次へ
 E.E.56,10/14      飛行音が鳴り響く。  辺りは一面砂漠。所々岩が砂の下から突き出ているが、それだけの場所である。  細かい砂の粒を吹き飛ばしながら、デザート迷彩の戦闘機が複数機、一直線に走っていた。彼らの目の前には、巨大な白い施設──目だけではその敷地の広さを確認できないほどの──が静かな表情で建っていた。煙突から流れる煙と、汚れ無き白い外装が対照的で、異質な存在に見えた。  俺は戦闘機たちがミサイルを施設に向ける様子を、岩陰から双眼鏡で黙って見ていた。ライダースの胸ポケットに入れたトランシーバーを取り出して、スイッチを入れる。 「あれを掃除すりゃ良いんだよな?」 『そうだ。だが迂闊に動くなよ。まずは様子を見て、敵が本当にあれだけなのかを確認して……』  通信機の向こうから聞こえてきたのは、機械的な男の声。もう何度目になるかもわからないくらい聞きあきた説明を寄越してくる。今回のクライアントだ。頭が切れるのはいいんだが、戦術師気取りはいただけねえ。 「あー、もうわかったからそれは。切るぜ」  俺は通信を切り、トランシーバーを砂のじゅうたんの上に投げ捨てた(クライアントからの支給品なので痛くも痒くもない)。  そうして、俺はまた戦闘機を見た。同じタイプのが、四十機。少し重装なのが二十機。計六十機。辺りを見回しても、増援がくる様子はない。臆病になる必要はないじゃないか。  クライアントのビビりっぷりを内心で笑いながら、隣に停めてあった“相棒”に乗り込んだ。ふるえる排気筒、砂塵巻き上げ飛ぶその姿、いつもと違わず心強い。 「行くぜ、相棒!」
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加