In the Pot Ⅱ

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 俺は大きな倉庫のような建物に連れてこられた。この辺一帯の茶色を全て集約したような錆のトタンだ。一際臭うオイルと鉄が鼻を摘ませてくれる。苔むした植木鉢からは藁のような得体の知れない枯れ草が垂れていた。扉と呼ぶにはおこがましいトタン板をどけ、中に入る。  中は屑鉄と絵具缶が山と積まれ、角の欠けたコンクリートブロックと砕けた木片とどこに繋がっているかもわからない延長コードがナポリタンになっていた。それだけでスペースの半分を占めていて、少ない窓から入る光のほとんどを遮断してしまっている。故にか、最初はもう半分のスペースに横たわる相棒の黒い姿に気づけなかった。俺がその存在に気づいたのは女が口を開いてからだ。 「被弾箇所は翼膜に二発、腹に五発。心臓左と顎、耳に一発ずつ。どれも致命傷じゃないが、胸からの失血が酷い。このままだと、近いうち、死ぬな」  聞こえるのは相棒の弱々しい息づかい。豪勇な空の王者の姿はそこにはなかった。ただ諸行無常の中の一つとしての生物がいた。 「……なんとかならねえのか」 「一つだけ方法はある」 「なんだ!?」 「お前の積んでた荷物を開けさせてもらった」 「……あれか」  俺と、俺の相棒が軍に狙われるそもそもの原因となったもの。相当のものが包まれていたのだろうと思うと、俺ごときが開けていいものではないパンドラの箱のように思えてきた。 「中身は新型の機竜統制プログラムだな。コストパフォーマンスから見るとエース専用に造った決戦兵器ってとこか」 「……ちょっと待て。そりゃどういう意味だ」  俺は女の言っている事が理解できなかった。いや、本当はわかっている。だがそれだけは駄目だと脳が無意識に選択肢から外してしまう。選択肢など、最初から一つしか無いのに。 「ここまで言ってわかんねえんなら本当の馬鹿だな。その改造キットをお前の竜に使ってやるってんだよ」 「相棒を機竜にするってのか」 「そうだよ。そうすれば少なくとも死ぬことはなくなる」  相棒を、機竜に。それは、己の最も信頼する友を己の最も蔑む塵芥に落とすということ。あれほど存在を否定した、ただの無機物でしかない機竜に、相棒をしてやれるわけが、ないだろう。
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