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E.E.56,10/15
「片付いたぜ」
俺は直接クライアントのデスクに出向いて、報告をした。クライアントは眼鏡を光らせて口元を笑わせた。
「ふっ、本当にあの数をたった一人で殲滅するとはな。英雄の名は伊達ではなかったか」
「英雄……」
俺はクライアントの発した一単語を反芻した。どうにもしっくりこないが、実際そう呼ばれてみると、そう大層なものでもないように感じる。
「どうかしたか?」
「いや、一つ確認しておきたいことがあってな」
「確認?」
「ああ。……あんたらは本当にもう兵器を造らず、復興に尽力すると誓うか?」
「それを訊いてどうする」
「俺は、俺が戦友と認めたやつらの意志を引き継いで傭兵業をやっている。もし、あんたらの言葉に偽りがあり、戦争の火種となるようなことをしでかすのなら、今度は俺がここを破壊にかかる」
俺が言うと、クライアントは目を空中に泳がせて、少し考える風に眉を結んでから、弱ったような口調で答えた。
「……肝に銘じておこう」
不安の残る答えだったが、一応は安心して、ドアを開けた。もうここに来ることはないだろうと思いながら、帰路を歩く。
しょせん地球は一差しの植木鉢。雑草の台頭をゆるせば、全体まで腐るのは驚くほど早い。逆にその芽さえ早期に摘み取ってしまえば、秩序は保たれる。
──俺は今、フリーの傭兵をやりながら、英雄と呼ばれている。『楽園の終わり』と称された戦争を終わりに導いたからだと。
だがそれには、誰にも語られることなく、歴史書に載ることなく散っていった勇者たちの活躍があった。
そいつらの掲げた正義と、無念のうちの死と、英雄の称号を、俺はすべて抱えて生きている。それが俺の罪に対する罰でもあるから──。
あの日、あの依頼を請けなければ、俺の運命も少しは変わっていたのだろうか。
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