In the Pot Ⅰ

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 E.E.53,6/5  壁は四面ともシミのない白。北側にだけ窓があり、そこから射し込む日光が、置いてあるデスクの書類を四角く照らしていた。部屋の気温はクーラーによって寒すぎるくらいに下げられている。  俺は部屋中央の応接用のソファにどっかりと腰を落として、俺を呼んだ主の到来を待った。目の前の長机に置かれたグラスには、すでに主役が飲み干されて用済みとなった氷だけが入っている。いい加減、暇を潰す方法もなくなってきたころ、やっとドアがガチャリと開いた。 「や、遅れてすまん」  向かいのソファに腰を落としたのは、今回の依頼人だろう、見た目欧米人風の、ガタイの良いスーツの似合ってねえ金髪アゴヒゲだ。客人を待たせたことを毛程も気にしていない様子で、それが俺には不満だった。 「『遅くなってすみません』だろーがよ。俺は呼ばれたから来てやったんだぞ」 「まあまあ。おれも忙しい身なんでな、許してやってくれ」 「けっ……」 「それで、依頼の件だが……」 「早速かよ」 「早速だ。わが社“トラインアーツ”が傭兵斡旋会社だということは知っているな?」 「知らんよ。俺は金さえ貰えればなんだっていい」 「命知らずなやつだな。たかが荷運びのくせに」 「うるせえ。大きなお世話だ。それで、仕事は」  この不景気な状況下、たかが荷運びだって命懸けだ。馬鹿にされた気がして、俺は思わず声を荒げた。 「いや、悪い悪い。そんなに怒るなよ」 「ふん……」 「で、そうそう、仕事の話だったな。連邦からわが社に“スノウグース”社の開発した新兵器を前線部隊に届けてほしいと依頼があってな。ミスター蓮美、あんたにはそれを頼みたい」 「そんなもん、あんたンとこの輸送隊にでもやらせとけよ」 「あいにく、みな戦いに出払っていて人手が足りん。だいたい、せっかく仕事を回してやったんだからつべこべ言うな」 「いちいち癪なことを言うやつだな。まあいい、明日には、仕事に取りかからせてもらおう」 「そうしてくれ」  正直、戦場に荷を届けるのなんかまっぴら御免だが、そうも言っていられないのが貧乏人の辛いところだ。俺は複雑な気持ちを胸に部屋を出た。
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