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E.E.53,6/6
だが確かに、あの依頼人の言うとおりかもしれない。この戦争下で、人は次々に死に、路頭には職を失った迷い人がたくさんうろついている。それを思えば、仕事があるだけ恵まれているとは言える。
傭兵になれば傭い手はいくらでもいるから、一度はその道を考えたこともあった。が、生きるために金を稼ぐのにわざわざ死にに行くのもつまらないと思い、やめた。俺みたいな男には荷運びくらいがちょうど良い。
「これだ」
俺はトラインアーツの倉庫の中で、人二人分はあろうかという包みを受け取った。包みにはスノウグース社の薄青色のロゴが入っている。
「包みの中には、どんなのが入っているんだ?」
「あんたがそのままただの荷運びで生きていくのなら、知らなくていいことだ」
「へっ、そうかい」
「では、頼んだぞ」
依頼人は後ろ手をヒラヒラ振りながら俺に背を向け倉庫を後にした。あとは周りに作業員らしき人間が数人働いているだけだ。
俺はその包みを“相棒”に載せ、彼に跨がった。
俺の相棒。それは俗に「ドラゴン」と呼ばれる存在。学者連中に言わせれば他に学名があるらしいが、そんなのはどうでもいい話だ。
太古より蒼空の覇者として生物界の頂点に君臨している大型肉食竜。
“生物界の頂点”などと偉そうなことを言っても、多くの自然界の猛者がそうであるように、彼らもまた、今は人間様に飼われる立場となっている。
そして、俺に飼われているのが、この相棒、黒飛竜だ。ちょいと珍しい種類なんで、それは自慢。体長は10メートル弱程、漆黒の体躯と翼が特徴で、その怪力はこの仕事にとても役立つ。長年、俺と共に荷運びの仕事をこなしてきた。顔は厳ついが、可愛いやつだ。
「相棒、こんな仕事さっさと終わらせて帰ろうぜ」
俺が荷を落とさないようにしっかり彼に結び付けそう言うと、彼も気合いの入った声で鳴いた。
ごうごうと羽音を鳴らし、風を巻き上げて相棒と俺は曇り空に飛び立った。
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