In the Pot Ⅰ

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 目的地はアジアがゴビの砂漠地帯の一角。黄色の砂と岩肌覗く殺風景な土地が一面に広がっていて、なるほどなんとなくモンゴリアンなにおいのする場所だ。  この時世にここまで人の手が入っていない場所があったのかと感心するが、文字通り不毛の地、自然という綺麗なものとは程遠い。  さて、ブツを渡す相手は連合軍の指揮官殿、らしい。アジア侵攻の第一歩として韓国を陥落させた連合軍は、その勢いのままアジアの要所、防衛線を次々と突破、モンゴルが首都ウランバートルを包囲した。ここに来てようやく帝国軍はアジア防衛に本腰を入れ、連合軍の猛攻を退けんと大援軍を送る。帝国は戦線をモンゴル中国の国境付近まで押し戻したが、大兵力を朝鮮基地に待機させている連合は退かず、両軍消耗戦の展開に突入した。状況を打開すべく法外な契約料を払い軍需企業のスノウグース社と専属契約を結んだ連合軍は、先頃開発された新兵器の輸送を例のなんたらアーツに依頼した。  これはこの戦闘域の独断で、軍全体の意向ではないらしい。それを今、俺が運んでいることになる。冷静に考えるとかなりヤバい仕事だ。  俺は生粋の日本人だが、日本が連合軍に参加してからはまだ戦火の届いていないオーストラリアに逃げた。そこにいる分にはどちらが勝とうが政治思想もクソもない俺には関係なかった。さっさとケリがついてくれればそれでよかった。  が、俺は今、明らかに戦争の片棒を、しかも戦闘域単位で見れば劣勢に立たされている連合側のものを担がされている。自分が生きるためとは言え、戦局を泥濘にはめるような行為をしているのだと思うと、なんだか複雑だ。  しかし俺はすぐに思い直す。自分はただの運び屋、この仕事が戦況に如何な影響を与えようと、それは依頼人の功績、俺の存在は記録には残らない。そう自分に言い聞かせた。そう、たとえ。 『そこの竜、止まれ! 我々は帝国軍の小隊だ』  こんなのに目をつけられても俺は荷運びでしかないから命の危険はない、はずだ。そう自分に言い聞かせた。
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