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俺はもう逃げる気でいた。これ以上軍の連中と無駄に争うことは得策ではないと思ったからだ。
多少回り道でも、兵器輸送の仕事さえクリアできれば過程はどうでも良い。
ライダーの腕が腐っていても、機竜の速さは本物だ。ばか正直に逃げても捕まる。──虚を突かねば。
俺は銃の撃鉄を弾いた。無論キルコーンは敵に届くほど広くない。奇跡的に当たったとしても傷一つつけられやしない。だからだ。下らない悪あがきをと、相手は俺を嘲り笑っていることだろう。
その一瞬を突っ切る。
距離は一気に詰まった。すれ違うかというところになってようやく奴らは機竜を旋回させはじめた。赤竜だけは微動だにせずそのまま飛んでいる。どうでも良い。そのまま浮いてろ。
そこで相棒の首を持ち上げ、軌道を上に、さらに上げて180度ターン、全力離脱を試みた。相手の機竜の旋回とタイミングを重ねたから、互いに背を向け合っていることになる。このまま行けば──。
「ぬわッ!?」
自分でも驚くほど間抜けな声が出た。このまま行けば逃げられるというところまで来て、相棒が急に止まった。体を固定してはあるが、空中に放り出されそうな感覚が残る。そしてそのつんのめった俺の鼻先一寸前を、機銃の弾道が流れていった。さすがに冷や汗を禁じ得ない。振り返らずとも、それを撃ったのが相棒の機動に釣られなかった赤竜であることはわかった。こいつだけ、群を抜いて射撃精度が精密で、まったく、厄介なものだ。
とにかく、たった一回しかなかった逃亡のチャンスはこれで潰れた。もう子どもだましの小技は通用しないだろう。
状態は、振り出しに戻った。機竜二騎が、もう油断しないぞとばかりにジリジリ迫ってくる。
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