道化の話

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それからライオンの檻を眺めてライオンに話しかける。ライオンは僕の言葉なんてわからないからね。こっちに背を向けてシマウマの方を見てる。そのうち戻ってきた猛獣つかいに鞭で追いやられたから、本を開いたけど魔法の本には実用性が無いからね、破って捨てたかったけど捨てると振り付け師が怒るから僕は本棚に本をしまって後ろを見たら振り付け師がニコニコ笑いながらコッチに来たんだ。 「その本に興味があるのか?」 「無いよ」 「お前は物わかりがいいからな。すぐに理解できるぞ」 「読まないよ」 「どうしてだ?サーカスで成功するには必要な本だぞ?」 「いらないよ、見当違いでしょ」 「口答えするな。お前は俺の言ったとおりにすればいいんだ。本を読め」 「いやだよ。さっき振り付け師が自分の事は自分でしろって僕に命令したからね。自分の意思をもって断るよ」 「生意気だな。お前が成長してピエロになったのは俺がサーカスを紹介して振り付けを考えてやったからだ。お前は俺の言ったとおりにすれば成功する。今までもこれからも。まあ、ピエロになった時点で俺に一度は逆らっているが許してやろう。言ったとおりにしろ」 「ピエロになったのは僕の意志だ。自分の意思を持ったのは君の命令だ」 「だからなんだ」 「いなくなってしまいたい」 僕はそういって、街を駆けたんだ。道化の姿のままね。それでも、僕は道化だからね笑ったまんまだ。笑ったまんまだったから道化なんだ。なのにね、目から水が出てきちゃったんだ。道化のための化粧が所々に剥がれてきて。これじゃ道化失格だね。化粧が落ちて道化から普通の顔になってしまった。僕は笑わないといけないのに。泣いてしまった。 でもね、僕は今でも笑顔のまま、街中のパン屋で道化をやってるんだ。 楽な自己防衛だからね。
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