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――世のため人のため、今宵も月に浮かぶ黒き衣を羽織りいざ参る。
「なぁーんてこと、あるわけねェじゃん」
――あるんだけどな。
俺――浅羽涼介(アサバ リョウスケ)は前の席に座っている内海雅也(ウツミ マサヤ)から受け取った雑誌を放り投げた。
「だいたいここは日本だぜ? 今時怪盗だの何だの信じるのはどっかの宗教か、目の前の馬鹿だけだ」
「いや、マジだって! 最近雑誌とかで騒がれてる通称"黒の化身"!! もう、すっげェカッコいいんだって!!」
コイツが言ってるのは最近ちまたで有名な怪盗"黒の化身"。
怪盗なのに何故人気があるかだって?
それは黒の化身に物を盗まれると、その家はたちまち景気が良くなるってこと。
実際、借金まみれの家に黒の化身が現れたことがあり、その後その家はどこにも負けない富豪になったってワケ。
そりゃあ、誰だって盗みに来てほしいわけだ。
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