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「ねぇ、拓巳。」
新学期が始まる前日、彼女は突然改まったお願いをした。
「何?」
「お願い、私を…大人にして。」
「…は?」
…大人?
どういう意味なんだ、と僕の脳内はパニック状態だ。
「私、拓巳と一つになりたい。」
その言葉の意味が分からないほど、僕はウブじゃなかった。
好きな、愛しい女が一緒になりたいと言ってくれている…だけど、僕は彼女を抱くことができなかった。
大事すぎて、大切すぎて、愛しすぎていた。
「…まだ、抱けない。」
「…私のこと、好きじゃなくなっちゃった?
重い女だし、嫌いになった?」
「違う。
愛してるから抱けない。
大事にしたいんだ、愛莉を。
だから、もう少し待って?
ゆっくり、愛したい。」
彼女は泣いていた…
きっと、分かってたんだ。
“その日”は二度と来ないと。
愛したかった。…彼女を。
抱き締めたくて、でも出来なかった。
「拓巳がっ、好き、なの…っ。」
「愛してる、好きなんかじゃ足りないから。」
「拓、巳っ、愛し、てるっ…」
そして、“その日”が来てしまったんだ。
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