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戌は猫を嫌っていた。なぜ嫌っているなんて理由はとうの昔に忘れたけれど、とにかく戌は猫の顔を見るたびに赤い歯肉を覗かせては唸り声をとどろかせ、互いに睨み合っていた。
そういうわけで、戌は世界でひとりぼっちだった。
猫もまた戌を嫌っていた。戌を好きになる気なんてさらさらなかったし、あの図体がでかく、ところかまわず鼻を地面にすりつける仕草にも嫌悪感を感じる。
会えば決まって毛を逆立てて睨み合う。
そういうわけで、猫は世界でひとりぼっちだった。
木々は彼らに語り掛けないし、海の潮鳴き声を彼らは理解できない。虫たちは鬱陶しくつきまとう邪魔な存在でしかなく、昔いたはずの彼らの仲間はとうに肉を腐らせ土壌を肥やす礎となり、あとには骨を残しただけだった。
ある日、それは唐突にやってきた。
頑なに守ってきた自分たちの世界を壊す音を二匹は確かにとらえていた。
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