下向教授

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「…では早速質問の方に入りますが、最近の若者についてどう思われますか?」 「というと?」 「夢の持てない、起業家思考のない現代の若者について意見をお聞きしたいのですが」 「というと?」 「からっぽで死にたがりのやつはどう思います?」 「ふむ、成る程。非常に後ろ向きな私好みの質問だね。」 「気に入ってもらえて光栄です」 「夢を持たない、起業家思考がないというが、それはチミ達のような憎むべき前向きな人間の思想の持ち主が押し付けようとしている価値観もしくは精神論であって、無理に矯正すればよりいびつになって突き出てくる人間が出て来る」 「ええ」 「その愚直な前向き思想が正に今の歪んだ社会を形成しているのだ。そろそろ後ろ向きに生きなさい。進歩しなくていいとその押し付けられた重荷を捨てた人間の方がもっと自由だ」 「しかし誰もが教授のおっしゃるようなことを考えれば、社会は成り立たないのではないでしょうか?」 「私の荷物に社会という荷物はない」 「それは責任放棄では」 「私の荷物に責任という荷物はない」 「重荷はあるんですか」 「ある」 「あの、えっと、そうですね、教授のおっしゃる後ろ向きとは具体的にどういうことでしょうか」 「読んで字の如く、絶対的に前を見ないことだ」 「しかしそれでは歩けないのではありませんか?」 「なんたらジャクソンは後ろ歩きで人を歓喜させた」 「街中で目立ちます」 「私には関係ない」 「人にぶつかります」 「私の荷物に存在という荷物はない」 「さっきから教授がぼんやりとしか見えないのはそれが理由なんですね」 「うむ」 「教授の言う後ろ向きな生き方と地に足着けない生き方の違いはなんでしょうか」 「私は宝くじを買わない」 「成る程、夢がないですね」 「ところで君は千里同風という言葉を知っているか?」 「いえ、知りません」 「私も知らん」 「何故聞いたんです?」 「ならチミは色即是空について考えたことはあるかね?」 「いえ、ありません」 「私もない」 「だから何故聞いたんですか?」 「ならば何故チミはここにいる?それに答えられるか?」 「作者の意図です」 「私もだ」 「まったく不運です」 「まったく不運だ」 「はあ…」
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