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11 桜の我が子と愛憎
桜の我が子と愛憎
僕は桜色の瞳に頭髪を持つ
母親の遺伝子を譲り受けた子
此の世に生まれて来るはずの魂
新しい生命を授かり
その時を待つばかりだった肉体
新たな人生を授かり
復活の時を待つばかりだった精神
人間の不埒な行いの結果
機会を失った哀れな僕
ママどうして
パパどうして…
母体の中で冷えていく身体
虚しくも逆らうことの出来ない現実
無力な自分に自我を失う
嗚呼…聖母の歌が降り注ぐ
まるで最後の時を癒すかの様に
生きたかった 生きたかった 逝きたかった
胎内で冷たい【塊】がうごめく
嫌だと叫ぶ我が子よ 涙を流す我が子よ
どうか許しておくれ
私の理不尽な行いであなたは
此の世に生を受けてしまった
こんなはずでは
こんなつもりじゃ…
愛も無い私を母親と呼べるのか
この子の存在を否定する私は
家畜にも劣る外道
嗚呼…まだ温もりはある
願うなら『膜を突き破って…』
生命を 存在を 愛を この子にください
母は愛憎(Knife)を握りしめ
自らの胎膜に突き刺す――
漏れ出たのは朱い粘着質な
前進を廻る生命の源
そして12ヶ月の時を経て立ち
上がるのは桜色の我が子…―
【まあ、随分と大きくなったのね…
母さん嬉しいわ】
【僕、狭い貴女の中でずっと
我慢してたんだ。でもやっと
自由になれた。…ありがとう】
【嗚呼、我が子よ。私を呼んでごらん
お母さん…と、呼んでごらん】
――呼んで
最後に桜色の子に向けた言
葉は親としての望み、願望
意識を手放した骸の眼球は
己の朱色で濡れていた…―
そう、桜色の我が子はレンズ
越しの幻――
骸を見下ろす桜色は全身を
漆黒に染めた" "だった
自我を失った桜の黒は
虚ろな瞳で愛憎を灯す
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