第九章<存在理由の如何について>

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わたし 八枷式見は思考する 零崎一賊に属するもう一つの精神 零崎斑織について そして あの子が産まれなければ 生死を共に出来たかもしれなかった彼のことについて 下らない事だ、と思う それでも思考する わたし あのこ 八枷式見と零崎斑織 その境界を識別するために 今やっている馬鹿な事を 辞めてしまえば必要なくなる作業を そう 本来ならばこんなことは必要のない作業だ わたし あのこ 八枷式見も零崎斑織も 本来はこの肉体を生かし続けるために産まれた存在なのだから だから今やっている馬鹿なこと――1日の大半を零崎斑織の精神に明け渡すなんてことを 辞めてしまえば良いのだ ......あのこ 勿論、零崎斑織はこの肉体を自分のものだなんて思っちゃいない .......わたし 彼女は、八枷式見を生かすために産まれたと信じているから 事実、私は彼女に、私が背負うべき狂気などをある程度まで肩代わりしてもらっている あのこ 零崎斑織が産まれていなかったら今ここで夜風に吹かれることもなく 人としての原型を止めずに死ぬはめになっていただろうから それは私の望みの一つだが まだ時期ではないのだ 最期を迎えるには まだ何かが足りない それは捕らえ損ねた彼を往生際悪く欲しているからかもしれないし 或いはまだまだ恨まれ足りないからかもしれないし 地獄巡りを終えるどころか始まってすらいないからかもしれないし そして、私が産まれる要因を生み出した彼を殺していないからかもしれない 「――――。」 式見は最後に何事か呟いて 斑織 私 に精神を明け渡した 「もぅやだよ…式見…」 (所詮総ては神の悪戯) (生粋の鬼でありながら) (二人の鬼は鬼らしからず) (紅の鬼は悲壮を喪失し) (斑の鬼は平穏を狂喜し) (黒の人は過去を渇望する) (何れ来たる終焉まで) ―最悪に傑作で、最高の戯言だ。 第九章<存在理由の如何について>了
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