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大通りの喧騒も遠い裏路地の片隅
喪服姿の少女が一人で佇んでいた
「痛みがあるならば捨ててしまえばよかろうに。何故人は抱え込むのじゃろうかの。その重みに耐えられぬと知っているであろうに」
古風な喋り方は何処か芝居染みている
「解らぬなぁ式見よ。あの男を傍に置いたのは主であろうに。何故迎えに行ってやらんのじゃ」
解らぬ、ともう一度呟く
「今さら捨てると言うならば責任もって殺してやればよかろ」
それともあの男が殺せぬ程に愛しいか
「どちらにせよ、主らは欠けて離れた一枚鏡じゃ。どんなに願おうが離れようが、殺してしまおうが殺されようが、けして逃れられはせんよ」
そこまで月のない夜に話し掛けると、少女は――八枷式見の三人目の人格は、下駄の音も軽やかに夜の街へと消えていった
――八枷式見…総ての柵を抱え理を見通す者
――戒織解識…世界を織り成し答えを知る者
三人目の人格者
過去視の黒羽
それが今現在の彼女の名前だった
代償<一枚鏡>
了
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