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「じゃあぼくが先に入るから。名前呼んだら入ってきてね」
マサルはタカシの肩を叩くと
教室に入って行った。
いつもとは違い、マサルがやってきた途端、ざわついていたクラスがしん、と静まる。
一言も囁かれないが、みんな目がキラキラと期待に満ちていた。
どこからともなく噂は流れていたらしい…。
コホン、と一つ咳をして
「んー、みんな知ってるみたいだけど…転入生が来てます」
途端、静かだった教室は一気に歓声で溢れる。
「ちょ…みんな!落ち着いて!紹介するから、…タ、タカシくん…!」
「…うるさい」
タカシの低く甘い声は、辛辣な言葉さえも魔法のようにマサルたちを惑わせた。
「ルートビッヒ・タカシだ」
タカシは何事もなかったかのように挨拶をした。
ハッとマサルは目を覚まし、
「タカシくん!席はあそこの空いてるところだから!」
「そんなに大きな声じゃなくても聞こえてる」
「あ、ごめ…!」
タカシはフッ、と大人びた笑みをマサルに残し、示された座席に向かう。
そもそも教師が生徒に謝ること自体、滅多にあることではないのに。
どう見てもタカシのほうが余裕がある。
ど…ど、ドキドキしたぁ!
タカシの前では、自分が教える立場であることも何のストッパーにもならない気がした。
ハマったらどうしよう。
きっとぼくは全てを捨てることも厭わないかもしれない。
男同士…。
そんなことは分かってる。
最も悩むはずのそれすら、どうでもいいと思えるほど、タカシは魅力的だった。
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